息子
「手を出さないの、むずかしい」
寝る前に息子がぽつりと呟いた。
昨日は保育園生活最後の遠足で、たのしい!たのしい!と満開の笑顔を咲かせていた彼の表情がいまは曇っている。明かりを落とした寝室で、その上わたしに背を向けているから顔は見えないけど、多分、悲しい顔をしている。
なに、どうしたの?と問いかけるとちょっと黙ってから息子が続ける。
「友達にいやなことされると手が出るんだよ、ぼくは」
息子の悩みとは。
対人関係で、コミュニケーションがうまく築けないことが原因でよくトラブルが起こしてしまう。言葉や発育の遅れはなく、集団行動への順応なんかは問題が無いらしい。だけどただ一つ、息子の持つ衝動的な部分だけが彼を苦しめている。
保育園の2歳児クラスに入園した当初からたびたび「様子を見ましょう」と観察されてきた経緯がある。そんな彼もいまや年長。いままでは本人の悩みと言うよりは保育園と親のみで共有する悩みだった。息子自身が苦悩している素ぶりは出さなかったから、いまこうして息子の口から悩みが語られるのは初めてのことだ。
はぐらかすな、大事なとこだから。わたしはわたしに念を押して息子の背中からぎゅっと抱きしめた。
「むずかしいよなー、簡単になおせるものじゃないから。心配しなくて大丈夫だよ」
「うん」
息子が涙声でうなづいた。わたし、まちがってなかったかな。そのあと息子はすぐに眠った。
むずかしいよ。